Autechre、Oneohtrix Point Neverの新作、そしてPolygon Window再発盤のリリースを記念した 〈WARP RECORDS〉キャンペーン開催中!


〈Warp Records〉が1992年にリリースしたコンピレーション・アルバム『Artificial Intelligence』。それはエレクトロニック・ミュージックを鮮やかに拡張させる試みだった。今でこそハウスやテクノはダンス以外の目的で制作されることが当然となっているが、リリース時の1992年はレイヴ全盛期で、ハードコア・ハウスやラガ・ジャングルのような享楽的で、ときには商業的とも思えるダンス・ミュージックが猛威を振るっていた。そんな中で〈Warp〉が掲げた“エレクトロニック・リスニング・ミュージック”というコンセプトは、レイヴの産業化に対するカウンターであり、自分の部屋でチル・アウトしながら聴けるテクノという新しい視座を呈示したという意味で、極めて挑戦的であったといえる。


 そのコンセプトはシリーズとなり、1994年に完結するまで、コンピレーションを含め、8枚の作品がリリースされている。そして、その中にはオウテカのデビュー・アルバム『Incunabula』(1993年)も含まれていた。ヒップホップ・フリークであったショーン・ブースとロブ・ブラウンからなるオウテカが、この『Artificail Intelligence』での試みを礎に、レイヴの快楽よりも、リスニング・ミュージックとして音を聴取することに積極的な意味を見出し、様々なテクノロジーを援用しながら飽くなき実験を繰り返してきたことはご存知の通りである。そんなオウテカが、なんと2ヶ月連続で新作をリリースする。そのタイトルは『SIGN』と『PLUS』だ。この2枚はある意味では兄弟姉妹のような関係にあるともいえるが、サウンドには明確に差異がある。『SIGN』は叙情的で気品のあるメロディが印象的なアンビエントを中心とするエモーショナルなアルバムであるのに対して、『PLUS』は彼らのルーツであるヒップホップやエレクトロ・ファンクの要素を色濃く持ちつつも、それらを多彩な音響工作でアップデートした実験的なアルバムだ。この2枚の新作における、80年代から90年代初頭への憧憬がありつつも、そこに現代的な音響工作を緻密に施すこと(特に低域の音の広がり/厚みが素晴らしい)で生まれた先鋭的な響きは、2020年代のエレクトロニック・ミュージックの幕開けを告げているといってもいいだろう。オウテカのサウンドは、牽強付会を承知でいうが、今もエレクトロニック・ミュージックの未来なのだ。


 そんなオウテカとともに〈Warp〉を黎明期から支えてきたのがエイフェックス・ツインことリチャード・D・ジェームスだ。彼がポリゴン・ウィンドウ名義で1993年に〈Warp〉から初めてリリースしたアルバムが、前述の『Artificail Intelligence』シリーズの第二弾としてリリースされた『Surfing On Sine Waves』である。今回完全版としてリイシューされる本作だが、アルバムの冒頭の「Polygon Window」が『Artificail Intelligence』に収録されていたこと(コンピでの名義はThe Dice Man)からも想像できるように、“エレクトロニック・リスニング・ミュージック”というコンセプトを具現化した作品だ。今改めて聴き直すと、「Untitled」の呪術的なうねりを持つTB-303のシーケンスやシングルにもなった「Quoth」のプリミティヴなビートと硬質なパーカッションの交錯は彼の無垢さを象徴しているようで微笑ましいが、ディープ・ハウスを思わせるピアノの旋律が印象的な「If It Really Is Me」やアルバム最終曲のアンビエント・トラック「Quino-Phec」のような美しさと不気味さを共存させたような音像の方が刺激的に響く。今でこそ、美と醜を共生させたようなエレクトロニック・サウンドはアルカやソフィーの登場でポピュラーになっているように思えるが、1993年当時にこんな異物感のある美しいサウンドを鳴らしていたことに改めて驚嘆せざるをえない。


 そして、美しさと不気味さを並列化した、先鋭的なエレクトロニック・ミュージックを生み出すアーティストとして忘れてはならないのが、2010年代の電子音楽を象徴するといっても過言ではないワンオートリックス・ポイント・ネヴァーことダニエル・ロパティンだ。そんな彼が2020年代はじめて世に問うアルバムが、自らの名前をタイトルに冠した『Magic Oneohtrix Point Never』である。今作はひとつのラジオ局を聴く体験を模した作品で、叙情性を感じさせるメロディや奇怪なサンプリング・コラージュ、嵐のような正体不明のノイズ、そしてヴォーカリストを中心にした楽曲やシンフォニックな楽曲など、変化を厭わない彼にしては珍しく自身の過去の作品への言及が多いが、心が穏やかになる瞬間と居心地が悪くなる瞬間が奇妙に相互補完していきながら調和へと向かっていく展開は、まるで彼の脳から外に出された創造的なプロセスをみているようである。こんなストレンジでスリリングなOPNの音楽は、”エレクトロニック・リスニング・ミュージック”というコンセプトで、クラブ・ミュージックという文脈の外側の領域でも鑑賞に耐えうる芸術作品としてのエレクトロニック・ミュージックというオルタナティヴも提示した〈Warp〉だからこそリリースできる音楽ではないだろうか。『Artificail Intelligence』シリーズから続く〈Warp〉のサウンドの冒険は、決して終わることはないのだ。


 最後に、そんな〈Warp〉からは2020年代に入っても魅力的なリリースが相次いでいることも付言しておかなければならない。インパクトに満ちたマシーン・ミュージックを展開したスクエアプッシャーの『Be Up A Hello』を皮切りに、グラム・ロックやソウルへと接近したイヴ・トゥモアの『Heaven To A Tortured Mind』、点描的トランスでエレクトロニック・ミュージックの可能性を拡張したロレンツォ・センニの『Scacco Matto』、社会の現状と向き合いながら、エモーショナルに仕上げたダークスターの『Civic Jams』と、印象的な作品が発表され続けているのだ。そういえば、『Artificial Intelligence』のジャケットにはクラフトワークやピンク・フロイドのアルバムが描かれており、それはアルバムとしての完成度も大切にするという意思のようでもあった。そして、今年発売されたこれらの作品の充実ぶりは、今も〈Warp〉がその意思を持ち続けていることの証左なのである。

2020年10月 坂本哲哉





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