ファンタジー溢れる夢心地なポップ感を類い稀なる手腕でまとめ多くの名曲を創出するプロデューサーyuichi NAGAO、2015年の1stアルバム『Phantasmagoria』、2016年の2ndアルバム『Rêverie』と人気を誇った2作に続く待望の秀逸3rdアルバムをリリースしたばかりのyuichi NAGAOさんに本作『Oblivion』に関してお話を伺ってみました!
yuichi NAGAO『Oblivion』インタビュー by more records
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ーー本作『Oblivion』で聴いて貰いたいポイントを教えて下さい。またトータルのコンセプト的なところはありますか?
yuichi NAGAO(以下、yN):トータルのコンセプトとしては『ビートミュージック~ベースミュージックとして太さを持った上で、メロディや和声、内声など細部もしっかり聴かせたい』ということがありました。
私自身シンプルでガツンとしたダンスミュージックも、丁寧にコンポーズされたアンサンブルも両方が好きで両方聴きたいという欲求がありましたので、それらを良いバランスで落とし込めないかと模索したという次第です。
ーーM3「Mirror feat. Kiddish」はKiddishさんのボーカルと曲調が素晴らしくマッチしていますね。Kiddishさんとはどのように制作を進めていかれたのですか?
yN:前作からそうなのですが、自作でヴォーカリストの方にお願いするときは全てオンラインでのやり取りで進行するスタイルをとっています。曲と歌詞を完成させた状態でKiddishさんにお送りし、レコーディングまでお願いしてファイルのやり取りを行うという形で進めました。
彼女は歌唱力が素晴らしく、録音スキルも申し分ないので数回のやり取りでOKテイクを頂くことができました。
実はそもそもオファーする前の、メロディと歌詞をフィックスさせる段階でKiddishさんへの依頼をイメージして作曲していましたので、実際に頂いたテイクを聴いた時はまさにハマったなという感じでとてもテンションが上がりました。
ちなみに弦などの細かいアレンジは歌を頂いた後から仕上げています。
ーーM6「Torus feat. Utae」は音響と言い楽曲の構造と言いyuichi NAGAOさんの感性が存分に反映された楽曲に仕上がっているように感じました。この「Torus」でUtaeさんを起用しようと思ったポイントを教えて下さい。
yN:UtaeさんとはUN.aの中村浩之さんを通じてご挨拶させていただいたこともありましたので、今回是非いずれかの曲でご一緒したいと考えていました。
お願いした「Torus」は、実は当初男性Voを想定していたのですが、メロディや歌詞を詰めていくにあたって女性の方が良いだろうと考えが変わっていきました。
そこで、音域やメロディなどから具体的にイメージしていったところ、これはUtaeさんの声にハマるだろうという確信を得たところでオファーさせてもらった、という流れです。
コーラスパートなどはUtaeさんのアイディアを多いに反映させていただき、Utaeさん以外ありえないという形でハマったと思うので非常に感謝しています。
ーーM8「Moon feat. Smany」では、前作の2ndアルバム『Rêverie』収録の「重力の海 feat. Smany」に引続きSmanyさんをフィーチャーされていますね。NAGAOさんにはSmanyさんのボーカルの魅力を教えて下さい。
yN:Smanyさんのボーカルは本当に素晴らしく、2ndから引き続き今回もぜひということでお願いしました。
その魅力ですが、まず声質が素晴らしいですよね。加えて、表現力の多彩さ。音域も広く、ニュアンスのコントロールもとても細やかな部分までお願いすることができました。
繊細な感性を持ちつつ、それをしっかり再現可能性を伴った技術に落とし込める点をとても尊敬しています。そして歌を自分のものにしてくれるスピードもとにかく早い!(さらにいうならメールのレスも早い!)
そういう点でもすごく安心して全幅の信頼と共にお願いできる方でした。
ーーBobby BellwoodさんをフィーチャーしたM9「A Thausand Nights」は本当に素敵な楽曲に仕上がっていると思いました。NAGAOさん的に本曲の解説をお願い致します。
yN:この曲は構造的には本作の中で最もシンプルな楽曲です。
コード進行はA♭△7、A♭m△7-5、G♭△7、A△7の4つを繰り返すというシンプルなもので、アルバムの他の曲のように例えばコード進行や転調で展開を作る、というようなアプローチはとりませんでした。ビートに関しても同様に、オーソドックスなリズムフィギュアでまとめています。
メインのコードを刻むピチカートのリフは、高級なストリングス音源ではなくあえて安い音源を加工して使いました。その方が楽曲とのなじみが良かったからです。
上記のようにシンプルな楽曲だからこそ歌唱力の高いシンガーにお願いしたいと考えていました。Bobby Bellwoodさんに歌って頂く事ではじめて命が吹き込まれたと思います。彼は普段英詞での歌唱が中心で、日本語で歌うことへの抵抗もあったそうなのですが、とても良い形に落とし込んでいただけたと感じています。
ーー楽曲制作で常に意識していることは何ですか?
yN:”意識している”というより”意識したい”という願望になりますが、とにかく『独りよがりにならない』ということを心がけたいと考えています。
というのも、油断するとすぐに独りよがりになってしまうからなのですが。
クライアントありきの音楽制作の場合、評価軸が自分の外にあるためエゴを抑えて作曲することができますが、アーティスト名義での制作においては完全に自分のエゴが出せる状態になります。そして自分の場合、そうした状態でエゴのコントロールを見誤ることがしばしばあり、それが良い方向に作用しないことが多いのです(人によって違うと思いますが、あくまで私の場合は、です)。
ここ数年でようやく気付きました笑。
ーー1st『Phantasmagoria』、2nd『Rêverie』、本作3rd『Oblivion』とコラージュ作家のQ-TAさんがアートワークを担当されています。NAGAOさんと音楽性とQ-TAさんの感性のどういうところがマッチされていると思われますか?
また『Oblivion』では『Rêverie』に引続きM6「Torus feat. Utae」をアニメーション作家の大谷たらふさんが担当されているとのこと、NAGAOさんから見た大谷さんの作風の魅力を教えて下さい。
yN:Q-TAさんの作品は、確か2013年頃にLidlyさんというビートメーカーから教えて頂いたのですが、それ以来ずっとファンとして楽しませていただいています。Q-TAさんのビジュアルからインスパイアされることも非常に多いです。
コラージュという手法自体、サンプリングでの曲作りを行う人間(今の私はサンプリングはしませんが、サンプリング的な感性は制作の原点の一つです)にとっては非常に親和性が高いものですし、Q-TAさんが使われるモチーフやシュルレアリスム的な世界観は美術大学の学生の頃から(もしくはもっと前から)刷り込まれており、大いに共感するものがあります。
もっとも、単に私がQ-TAさんのファンとして共感しているという部分も大きく、本当に音楽にマッチしているのか?といわれると正直わかりません笑。
大谷たらふさんですが、彼は本当に素晴らしいアニメ作家で、デジタル的な感性を持ちつつ、それを手書きの線に落とし込まれている方だと思います。大谷さんのアニメには、モーショングラフィック的な空間と線の生成にアナログな揺らぎが加わることで生じた、いつまでも見ていられる動きの快感があります。加えて、ご本人の人柄そのままにどこかユーモアと可愛らしさがあって、これまた最高な世界観を作りだしていると思います。
yuichi NAGAO "ハルモニア feat. Makoto" MV from 2ndAlbum "Rêverie" PFCD61
Animation by 大谷たらふ
ーーこれまでに影響を受けたアーティストを教えて下さい。
yN:自分以外は全て先生だと思っていますので、影響は現在進行形で毎日いろんな方の作品から受けています。
ということで挙げていくとキリがないのですが、アルバムを作っていた2018年はジョン・ウィリアムスの偉大な仕事にかなり影響を受けました。モードとコードを知り尽くした人なので、彼の音楽を分析していると「ドレミで描く世界でここまでできるのか」ということで本当に自由な気持ちになることができます。
あとは何度か一緒に仕事をさせていただいたfhánaの佐藤純一さんからの影響も大きかったです。
ーー最近のお気に入りのアーティストや作品を教えて下さい。
yN:昨年ジョン・ウィリアムスにハマっていた流れで、最近はマックス・スタイナー、ジェリー・ゴールドスミスあたりの作品を向学の意味も含めよく聴いています。
ーーフィーチャーや共演など、今後一緒にやってみたいアーティストはいますか?
yN:共作もしくはフィーチャーしたいのは京都のOleganoさんというアーティストです。単純に彼の作品のファンであることと、以前拝見したインタビューを見る限り音楽性のルーツも共感するものがあったので。オーケストラ+エレクトロニカみたいな作品や、アコギをフィーチャーした作品なんかをいつかお願いしてみたいです。
ーー最後に、これからの音楽シーンについて、特にフィジカル、配信、ライブなど、アーティストの視点でみる今後や将来像的なところを教えて下さい。
yN:作品を作る人間は、その規模の大小を問わず各自にとって最適化された環境を見つける、もしくは作ることがますます重要になってきているように思います。
数年前は『音源は売れない、これからはライブだ』というような言説もよくありましたが、そんなに単純な話ではなく、例えば『ライブ一切しない、音源もリリースしないけれど音楽youtuberとして自分の演奏を100万人に聴いてもらえる』とか『規模は小さくとも同人的コミュニティの中で顔が見える相手のために曲を作って売る』とか、とにかくその人にとって最適化されたアプローチがあれば良いのではないかという気持ちが強くなりました。
そうした多様性のもと、フィジカルの音楽作品については、かつてのように『何十万~百万枚も売れるようなプロダクト』という役目は終えても、それと違う形と意義を持って残り続けて欲しいと思っています。
多様性というと言葉は美しいですが、もちろん楽観視できることばかりではありませんので、私自身もできる限り「こうでなければならない」というような考えに固執せずに、自分の作りたいものを作り続けるためにベストな環境を模索しつつ粛々とやっていきたいという次第です。
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